「トスカ」の第二幕の舞台となるファルネーゼ宮殿は、先程の教会よりゆっくり歩いて10分ほどのところにある。この広いローマの町のほんの一区画を動いたに過ぎない、歩きながら辿り着くことを考えるだけでオペラへの自然な誘いを感じることができる。
このオペラにおける中間部分は、第一幕、第三幕に比べると閉塞感の否めない、わたし自身は空気の流れることのない、息詰まりのする澱んだ場であると考えている。
動乱の最中、ローマの警視総監として権力を思いのままにしていたスカルピア。その暴君の象徴と言えるのがこのファルネーゼ宮殿である。
現在、フランス大使館としてテヴェレ川沿いに変わらぬ姿を見せているが、オペラの舞台となった1800年には実際その佇まいの中で政治的な、あるいは軍事的な執務がされたこともあり、スカルピアの非道かつ残忍な行いを演出する場としては、この空気の澱むような空間こそが相応しく思えてしまう。だからこそトスカによって歌われるアリア《歌に生き、愛に生き》の至高の祈りが浮かび上がるのであろう。
わたし自身が何より興味深く思っているのは、このオペラ、第二幕から第三幕までの時間の経過とその導線である。前回書かせていただいたが、実際に自分の足で歩いたことがある。
ファルネーゼ宮殿からサンタンジェロ城までゆっくり歩いて20分くらいであろうか。当時より存在したジュリア通りがほぼお城まで続くことでトスカ自身もそこを通って向かったということはほぼ間違いなさそうだ。ただ、どのようにして辿り着いたかが問題になる。
サルドゥの原作によると、スカルピアを刺殺したあと宮殿づきの召使に馬車を用意させて城へ向かったと記述はあるが、プッチーニがオペラの中でどのように思い描いたかは定かではない。ただ、すべてが停滞していた第二幕から脱却するために、再終幕では馬車で駆けつけると考えるのが自然であるかもしれない。
スカルピアを刺したトスカは、必ず返り血を浴びることになる。馬車に乗る前に宮殿のどこかで服を着替えたと考えるべきであろう。先に刑場となる城に運ばれたカヴァラドッシに再会するために、また自分が潔白を主張するためにも、新しい服が必要と考えるべきである。そして魔の手から逃れるために、遠くへ赴くためにより軽めの服に身を包む必要があったのではないだろうか。ただならぬ困惑の中にも、真夜中の静寂の中にあって未来を見据えながら研ぎ澄まされていくトスカの思考が露わになるが、見えない部分だけに何とも興味深い。
オペラは救いのない悲劇的な末路とも捉えることはできるが、終幕のホルンと弦のハーモニー、羊飼いの歌に象徴されるように、やがて訪れる平穏(夜明け)を意図しているかのようにも思えてくる。
堂満尚樹(音楽ライター)
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